「ダイエットするやつは二郎食わねえよ」
ガラの悪い男に言われた。
これがラーメン二郎について何も知らない人に言われた場合、俺は間違いなくキレる。
うっせえてめえに言われたくねえ。何も知らんくせになめんな。ラーメン二郎は完全食であり、食物繊維、タンパク質、脂質、炭水化物に加え、生玉子や味玉を足したら栄養バランスは完璧なんじゃ。
素人は黙っておれ!!!!!!!!!!!!
とか言っちゃって一発でヤバい人判定をいただくことになる。もちろん俺の言ってることも明らかに大げさであり、栄養学的なことなど一切無視したトンデモ論でかつ何かの陰謀を簡単に信じるような人しか騙されない暴論であることは否定できない。
だがしかしだ。
俺にはハイパーダイエッター、というよりはただのマッチョ気質かつハマり症で飽き性で、一時期はボディビルダーかと想うほどの体重の増減をしていた友人がいる。
青梅街道の覇者であり、味噌っ子ふっくに並んでいるヒゲメガネデブを見つけてはニヤリとした顔で近づいてきて「この限定厨が!」などと吐き捨てて行った男にこれを言われてしまった。
あまりの心のショックにまた寝込みそうになったわけだが、なんというか俺には俺の言い分があった。
急激なダイエットにはリバウンドがつきものだ。これは様々な友人知人たちがダイエットを成功させ、その後のあられもない姿を見せつけてきたからこその持論である。
もはやダイエットという概念は捨てなければいけないと考えた。ダイエッターなどという名前はすでに空虚な空を漂っているといっても過言ではない。
私が目指したのは「食生活改善」と、継続的な体重計への依存だ。
どういうことかというと、急激な食事制限と過度な運動を続けることは難しい。それでいて一ヶ月で8キロ痩せました、3ヶ月で15キロ痩せました、とはいえ、「やったー痩せた!自分で自分を褒めてあげたい有森裕子だから俺今週は毎日二郎を食うんだ!」などと言っても当然、その先に待ち受けているものはリバウンドである。
それを絶対に避けなければならないと思うと、どうも「ラーメンを全く食べないダイエット」ほど危険なものはないわけだ。
よって私は、昼間にしっかりとラーメンを食べ、夕食は質素に食物繊維とタンパク質メインの食事を摂り、朝飯は本当に身体が動かなくなるほどの空腹でなければ食わない、ということを実践したのだ。
もちろん例外はある。どうしたって飲み会に誘われるし、夕飯に可愛い女の子とラーメンデートしなければ自分の精神は保たないのだ。
だが、俺にはもとに戻すべき食生活基準というものも手に入れた。いつでもそこに戻れば体重を減らすことができる。
そう考えれば俺は昼間にラーメン二郎を食べてもいいのだ。
こ、
こ、これは!?!?!?
せやかてジョニー、閉店間際や。並びも少ないっつうのに外で行列整理をしている店員をいじってから入店してみりゃ給水器横に「みそ」なんて書かれたボトル。
俺は迷わずみそダレとラー油を混ぜて卓に置いた。
二郎いち映える照明にさらされたブツは心躍るヤツ。
ついでに手の影も写る。
野菜をラー油みそダレで食えば…多かったな。
しょっぺえ…
麺とコンニチワーしてズルっとやれば嗚呼…いつもどおり安定して美味い。
底からかき混ぜてみれば濃い目のお醤油が湧き上がる。
そうなってくれば生玉子の出番だ。生玉子は身体にいいからね。当然つけるよね。
非乳化のほうが生玉子に合うとは思うが、ここのラーメンに関してはそんなもの関係ない。
堪能した。
サクッと完食フィニッシュムーブ軽く会釈して退店。
終わってみれば紫の服を着たドレッドの男から自撮りが送られてきた。
似合いすぎだろあいつ…
俺に課された使命は残り一つ…早寝だ。