「また会いましたね」
えっと…
「あの時助けていただいたしかば」
そこまででいいです。私がバカでした。
すっかりと身なりも整え、手にビア缶を握った青年の顔つきはいかにも精悍といったもので、死人の髪をむしりとった婆の姿を見せた私の幻惑は一切感じ取れなかったようだ。
誰もが下人になる可能性があり、誰もが職を失い、誰もが食のため、衣のため、住まいのために生きていることを実感させられることなど、2輪を漕ぐエンジンとしての自覚すらも失っていた俺はこう答えた。
「ジョディフォスターとジェダイマスターで韻踏める」
彼は顔を一つ曇らせることなく、手に持っているビア缶を緑の液体に変えていた。恐ろしいことにそれは、茶色かもしれない。
「東京生まれヒップホップ育ち 板橋で朝まで飲んでるやつだいたい友達」
俺は返す言葉もなかった。彼を認めるしかなかった上に、俺も水分補給が必要だと感じた。
彼との交信は9時間前に遡る。俺はドープなSHITが欲しいと嘆いていたのに、彼は先にDJ KRUSHの音の波に揉まれていた。
「嘆くのはボインにだけしとけよ」
そんな言葉が新小岩の方から聞こえてきたが、奴はまだこの土地を踏んでいないはずだ。
全てを見透かすような目で川の流れを見つめている。俺も同じ目線に立ってみる。
流れていくのは水ではなく、車と衆生。高級車からトラック、軽自動車に始まり、爺、婆、若者、いかにも東中野が極まったサブカルチャー娘。
全てが通り過ぎていくような感覚を覚えながらも、目で追い、耳を立て、そして立ち止まらずに俺たちの横に並んでいく者たちの姿形を見ては安堵と戸惑いと、ただならぬ狂気を感じていく。
立ちはだかる人の壁。いつのまにか道路の隅から目の前に狂気の壁が音をたてて立ち上がっていく。
どこにでも置いてある箸じゃ、物は摘めても驚きを感じない。
概念を覆すのはいつだって尖った先端だ。
こ、
こ、これは!?!?!?
味噌まだあるかなぁなかったらどうしようね!?どうしようね!?とか言いながらウキウキワクワクで1時間近くも彷徨いていたのは我々だ。
ズルッとやれば嗚呼…美味え。いつも青梅街道で食ってるアレと比べちゃ流石に荷が重いってやつだが、どう食ってもその出汁は血筋そのもの。
硬い麺にビンビン刺さるお味噌汁はゴクゴクの予感しかない!
チャーシューはいつも通りの2種類で最高のブツ確定。
ワンタン…美味すぎるわ。
ワンタンメン死亡確認。
この手の味噌ラーメンは一味ぶっかけて食うのに限る。
サクッと完食当然 #完飲制倶楽部 ゴクゴクブチカマしフィニッシュムーブ深々とアンガーラーして退店。
精悍な顔つきでズビズバ啜ってた青年に別れを告げ、俺は約束の地高円寺パル商店街でいわゆるガンコ臭振り撒いてから帰宅した。
最高の休日。関係ないけど。