全てを思い出した
忘れたいほどに狂おしい記憶の断片であった。
3時過ぎに帰ってきて朝9時にチャリ漕ぎ始めるなんて正気の沙汰じゃない。
しかも俺は…幡ヶ谷から歩いて帰ってきていた。朝目覚めてみても完全にハイテンションだった。ハイテンション・パブの反省会を脳内で行い、時計の針を気にしながらも使命感に駆られて俺はお風呂に入った。びっくりするほどの長湯を朝っぱらからキメてやった。
井ノ頭通りを自転車で漕ぎ出す。数時間前に下ってきた道をまた上ったわけだ。登坂に関して言えば下りだったわけだが、俺はそこで感じることが出来る苦しみが、体力の衰えか、それとも前夜の疲れの残りかと自問自答し続けた。
出た答えは…「まだ酔っている」であった。
すっかり元気になってもう鬱なんかねーよ早く働けと自分に言い聞かせてここ最近は生きてきたわけだが、どうにも酒を呑むと自殺願望が見え隠れするレベルに飲んでしまうことが多かった。ようやく気づいたのはつい4日くらい前のことだ。若くないわけだし、すっかりと世捨て人のような生活を続けていく上でそんなに呑んでちゃどうしようもない。脳の萎縮すら感じる。こないだ献血に行ってみたが、大した数値の変動はなかったので安心はしているものの、その数値から見られるものはごく僅かなわけだ。
俺は健康を取り戻さねばならない。その前に男の意地を守る儀式を戦い抜かねばならない。そうして俺は頭を丸める思いでいろいろなものを取り戻しつつ、自分の承認欲求と付き合う戦争を生き抜かねばならないのだ。
そんなことを考えながら清々しい秋晴れの空を見上げてみれば、足元になんか変な若者が酒を飲みながら転がっていた。
やつの亡骸を拾い、再生の儀式を行うことを誓った。
ひとまずカメラロールに入っていた謎のラーメンの写真を供養しようとした。それを亡骸に見せてみると不思議なことが起こった。
「それは…現実です」
ヤツの声が心のなかで響く。俺は事実確認の必要もない、と思いながらそれをなかったコトにした。
亡骸が冷えていくことを心配しながら俺は、ヤツの髪を毟り、東中野駅のアーチの上で保存していこうと考えていた。この冬のアウターにするにはいささか量が足りなかったので、高円寺の美容室で錬金術ばりに増やすことも目論みながら。
次々に男たちが軒先に集まる。中から黄色い覆面をかぶった行者が出てくれば、男たちが瞳孔ガン開きでヲタク特有の口調で唱える呪文に俺は少しばかりの疑問を抱く。
なんのことかよくわからないが、とりあえず俺もその店の中に入って唱えてみた。
小声で。
「アンガーラ」と。
こ
こ、これは!?!?!?
飽きるまで食えが信念の俺だから。ここに来ることには何のためらいもなかった。
何か確認したい気持ちが、非常にやましい気持ちだということもわかってはいたが。
どうも皆が存在に気づき始めたとなれば、俺は身体論的なものを感じながらそれを食べてみたいと思ったのだ。
ズルっとやれば嗚呼…数日前に食ったブツともまた少し違う。かといってただの清湯ではない暴力性に酔いしれてみるしかなかった。
美味え。
特製にしてみればチャーシューも増える。がんこレベルの厚みをもったチャーシューは今回も俺の心を掴んで離さなかった。
ワンタンはいつもどおり最高のブツ。ワンタン大好き、俺。王大人ってワンタンからとってきたんじゃないかと思うほど。
AJTMくぱあすれば…大失敗。30点レベルだがこれまた美味しいブツで大満足。
なんという店なのだろうか。
チャリこいでかいた汗も無に返すのは忍びないと思ってしまったのは内緒だ。
サクッと完食フィニッシュムーブ深々と会釈して退店。
よく見れば横たわっていた亡骸が息を吹き返し、
「アンガーラ」と呟いてズビズバすすり始めていたのは言うまでもない。
俺は生の喜びを認めながら自宅に帰還し、お昼寝してたら高円寺のシーシャおじさんから連絡。痛飲。
どうしようもねえなと書いてて思うわ。
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