嫌な予感がする
俺に備わるフォースの力がそれを感じさせていた。
わけもなく。
唐突に訪れるアナウンス。俺たち腹ペコ吉祥寺民にとって春眠も暁もクソッタレもない春の知らせが駆け巡った時、
全員の目に涙が流れた。
恐ろしいことにそれは花粉症のそれかもしれない。
風が吹いたら桶屋が儲かると言うが、COVID19のウイルス蔓延はどこに利益をもたらしていたのだろうか。
我々は油断しがちな生き物である。
いつまでもそこにあるものと思っていた。なんの問題もなく、ただただ時が過ぎていくと思っていた。店の前を通り、嗚呼まぁ確かにお客さんいないけど常にUberの配達員はいるわ、なんて思いながらとなりの天下寿司にも入ることなく、俺は家で鍋を食っていた。そう、鍋。鍋は美味しいからね。
ほら、ちゃんこ飯って鍋と白米じゃない。あれを食べることによって相撲取りもプロレスラーも身体を作るからね。野菜を食えば食物繊維を摂れるし、肉はタンパク質になる。
そして消費したエネルギーは白米から吸収することになるのだけど、炭水化物を食わなければ太らないってようやく気づいたのね。
だからね…今年に入って1回しか食ってなかったの。マジで。きちどん。俺にとってはセーフティネットだったわけだよ、きちどん。飯作る余裕が無いときにたくさん食べれる店ってこれくらいしかなかったから。
俺の通う頻度とともにあの店からも人が減っていった…当然ながらそれは俺のせいとかそういうことではなく、人々のバイオリズムが何か…いや、COVID19をきっかけとして狂っていったのだろう。
それに加えて、だ。
腐っても大食いの端くれ。世界大食いびっくり人間たちが地下闘技場出場者なら、俺は各競技の世界チャンピオンレベルだった。
だったら俺は一度はその店のMAXメニューを食っておくべきだったのに…どうも「いつでも食えるだろう」という油断は、閉店前日までその機運を持ち越すことになってしまったのである。
たくさん麺が食べたい。おおよそグラム数では計れない世界が俺の目の前に広がっていながらも、1.6キロってまぁ…それなりだな、とか言いつつ先送りしてしまっていた俺を恥じておきたい。
昼間に背脂ラーメン大盛りにライスを付けつつ、歩き、寝て、バンドのリハを経てまぁそれなりのコンディションまで整えた俺。
自宅に機材を置いて南下する井ノ頭通り。
俺の頭の中には「はっしもと」コールが木霊していた。かと思いきや
UWFのテーマがエンドレスで流れていたのであった。
こ、
こ、これは!?!?!?
こんばんわ破壊王。ここは闘強導夢のアリーナ席。
隣の席からスルーパスされたキン◯マ仕様で完璧な布陣。ちなみに隣の席でも元100キロの男が破壊王にキムチ付けて到着を待っていた。
パクっとやれば嗚呼…うむ。普通。うむ。やっぱり特にめちゃくちゃ美味いという感想はない。
俺は昼間の金髪お姉さんのいたころのオペを思い出しながらも、肉とネギに隠された白米に軽く会釈しながら冷ましていった。
一切の手を止めることなく、咀嚼スピードも一切落ちることがなく俺はザクザクと食い進めていく。
俺の目には涙が溜まっていく。失った塩分をお醤油と生玉子で補充していく。
玉子ぶっかければ嗚呼…一気に食いやすい温度に下がるの完璧な戦略だったな、なんて思いながら。
飽きることなく12分で堪能。
サクッと完食フィニッシュムーブ完食証貰い軽く会釈して退店。
外に出ると長蛇の列。どんどん押されていく破壊王のボタン。
俺たちは皆、ここで卒業していくのだ。
いざさらば さらば先生
いざさらば さらば友よ
美しい 明日の日のため
とか言ってたら跡地が同じグループ会社のシャレコいたラーメン屋に変わっててブチギレている今の俺。
これくらい言わせてくれや。愛してたんだよ、あの店内を。